ピロリ菌・胃がん

ヘリコバクターピロリ感染胃炎

ピロリ菌とは

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ) とは、胃の粘膜に生息する微生物で、大きさは約4ミクロン(4/1000mm)ほどです。通常、胃の中は強い酸性環境のため、細菌は生息できません。しかし、ピロリ菌は胃内に存在する尿素を分解し、アンモニアを生成することで胃酸を中和し、自らが生存しやすい環境を作り出します。
ピロリ菌の感染経路についてははっきりとわかっていませんが、幼少期の胃酸の分泌が十分でない時期に、口を介して感染すると考えられています。

ピロリ菌に感染すると...

ピロリ菌は、感染しただけは症状が出ませんが、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍、さらには胃がんの発生に深く関わっていることがわかっています。感染した状態が持続すると、胃の粘膜に慢性的な炎症を生じ慢性胃炎(=ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)を発症します。この慢性胃炎が癌の発症に深く関わっているとされています。
ピロリ菌の感染が疑われる場合は、早めの検査をおすすめします。また、感染が確認された際には、できるだけ早くに除菌治療を行うことが重要です。

ピロリ菌検査について

保険診療でピロリ菌の検査および除菌治療を行うためには、まず最初に胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)を行う必要があります。胃カメラで、慢性胃炎を疑われる場合にピロリ菌の検査を行う流れとなります。
*健診など自費診療で行う場合には、ピロリ菌感染の有無を検査することができます。
ピロリ菌の検査には、「内視鏡を用いた方法」 と 「内視鏡を使用しない方法」 があります。それぞれの検査方法について、以下で詳しくご紹介します。

内視鏡を用いたピロリ菌検査

  • 培養法
  • 採取した組織を培養し、ピロリ菌が増殖するかどうかを確認することで感染の有無を判定します。

     

    • 迅速ウレアーゼ試験

    ピロリ菌が持つ酵素 「ウレアーゼ」 によって作り出されるアンモニアの有無を調べ、感染しているかどうかを判断します。

     

    • 組織鏡検法

    採取した組織を特殊な染色で処理し、顕微鏡で観察することで、ピロリ菌の存在を確認します。

内視鏡を使用しないピロリ菌検査

血液や尿、便、呼気を採取し、ピロリ菌の感染の有無を調べます。
*保険診療で検査を行うためには事前に内視鏡検査で慢性胃炎と診断される必要があります。

  • 尿素呼気試験法
  • 試薬を飲み、吐いた息の中に含まれるガスを測定し、ピロリ菌の持つウレアーゼ活性を測定することで、ピロリ菌の感染の有無を調べます。


  • 抗体測定法
  • 血液や尿を採取し、ピロリ菌に対する抗体があるかどうかを検査します。抗体の有無によって、感染があったかどうかを判断します。
    *除菌治療後でも陽性となることがあります。


  • 抗原測定法
  • 便を採取し、ピロリ菌の抗原を調べることでピロリ菌の感染の有無を調べます。

ピロリ菌の除菌治療について

検査によってピロリ菌の感染が確認された場合、除菌治療を行います。

治療では、胃酸の分泌を抑える薬(酸分泌抑制薬)と、2種類の抗菌薬(アモキシシリン、クラリスロマイシン)の 計3種類の薬を、1日2回、1週間服用 します(一次除菌)。治療を行うと必ず除菌(ピロリ菌がいなくなる)できるわけではありません。そのため、服用終了後 1~2か月後に再度検査を行い、除菌が成功しているかを確認します。もし 除菌が完了していない場合は、抗菌薬の組み合わせを変えて、除菌治療(二次除菌)を行います。この際、抗菌薬の1つ、クラリスロマイシンをメトロニダゾール に変更し、再び1週間服用します。

除菌成功率

一次除菌
成功率 約70~90%
二次除菌
成功率 約90%

*服用中の副作用について

治療期間中には、下痢・発疹・味覚異常・肝臓や腎臓の機能障害 などの副作用が出ることもあります。異変を感じた場合は、医師・薬剤師にご相談ください。  

胃がんについて

胃について

胃は、食道と十二指腸の間にある袋状の臓器 で、食べ物を一時的に蓄えながら消化を助ける役割を持っています。胃の壁は 内側から順に「粘膜」「筋層」「漿(しょう)膜」 といった複数の層で構成されており、粘膜から分泌される胃液(消化酵素や胃酸)によって食べ物が消化されます。その後、消化された内容物は徐々に腸へ送り出されます。

胃がんについて

胃がんは、日本人に多いがんの一つです。
新たに診断されるがんの中で 大腸がん・肺がんに次いで3番目に多いとされています。発症率は男性の方が高く、男性は約10人に1人、女性は約21人に1人 が胃がんを発症すると推定されています。
胃がんの発症率は50歳を過ぎると徐々に増加し、80代で最も高くなります。日本の高齢化に伴い、胃がんの患者数は増加傾向にありますが、検査技術の向上や早期治療の普及により、死亡率は減少してきています。
胃がんの発症に最も関与するとされているのが、ヘリコバクター・ピロリの感染です。ピロリ菌が胃の粘膜に定着すると、慢性的な炎症を引き起こし慢性胃炎(=ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)となります。胃がんの多くは、このピロリ慢性胃炎を背景に発生します。その他、喫煙や過度な飲酒、塩分の多い食事、ストレスなども胃がんの発症のリスクと考えられています。
胃がんのリスクを少しでも軽減できる様、早期のピロリ菌の検査と除菌治療、バランスの取れた食生活、禁煙など生活習慣の改善が重要です。
ただ、胃がんを完全に予防することは不可能です。胃がんは早期発見し早期治療を行えば、助かる病気です。胃カメラの定期的な検査が最も重要です。

胃がんの発生と進行

胃がんは、胃の粘膜細胞が何らかの原因でがん化することで発生します。
がん細胞は増大するにつれ、粘膜→粘膜下層→固有筋層→漿膜下層→漿膜へと徐々に外側に深く進んでいきます。さらに進行すると漿膜の外側にまで達し、近くにある臓器(大腸・膵臓・横隔膜・肝臓など)にも直接広がっていきます。また、がんがある程度の深さまで広がると、リンパ液や血液の流れに乗って移動し、胃から離れた臓器で増える転移が起こります。

スキルス胃がんとは?

胃がんの中には、「スキルス胃がん」 と呼ばれる特殊なタイプがあります。
このがんは 胃の壁に染み込むように広がり、胃壁を硬く厚くするのが特徴です。通常の胃がんは胃の壁に隆起や潰瘍ができるため、内視鏡検査で比較的早期に発見されることが多いですが、スキルス胃がんは目立った隆起や潰瘍がなく、正常な組織との境界が曖昧なため発見が難しいことがあります。
また、進行が速いため、症状が出て病院を受診した時には、すでに進行しているケースも少なくありません。胃がんの早期発見のためにも、定期的な検査を受けることが重要 です。

胃がんの主な症状

早期胃がんの段階では、症状はほとんどありません。
胃がんが進行するにつれて、徐々に次のような症状が現れることがあります。
  • みぞおち周辺の痛み
  • 胃の不快感や違和感

  • お腹の張りや膨満感
  • 頻繁に出るげっぷや胸やけ
  • 吐き気やムカムカする感じ

  • 食欲が減退し、体重が減る

  • 便が黒くなる(血便)

  • 貧血によるめまいやふらつき  など

これらの症状を認めた場合は、早めに受診し検査を受けることをおすすめします。

胃がんの治療について

胃がんでは、治療ガイドラインに沿って、がんの進行度に応じた適切な治療方法を選択します。主な治療法は以下の通りです。

内視鏡治療

胃カメラを用いた治療で、胃の内側からがんを剥ぎとるように切除する方法です。
リンパ節転移の可能性が低い早期がんで、一度に切除が可能と考えられる場合にのみ選択される治療です

外科手術

肝臓や肺など遠くの臓器に転移がなく、内視鏡知用が困難な場合に行われる治療です。
お腹を開いて直接手術を行う開腹手術やお腹に小さな穴を数個あけそこから専用の器具を挿入して行う腹腔鏡下手術だけでなく、現在はロボットを使用したロボット支援下腹腔鏡下手術も多数行われています。

化学療法(抗がん剤治療)

抗がん剤を使用し、がん細胞の増殖を抑える治療です。
手術でがんを摂りきることが難しい場合や手術後に再発を予防するために行う場合、また、手術前に病変を小さくしたり転移巣を小さくしたりするために行う場合といろいろな目的で行われます。

治療法はがんの状態や患者の体調を考慮して選択されるため、医師と相談しながら最適な方法を決めることが重要です。